TRIP

2016年 California winter swell
今年の冬、かつて類を見ないほどの強力なエルニーニョ現象が発生した。
エルニーニョとは東太平洋に暖かい海水が寄る現象で、その逆は西太平洋、つまり日本の南海上に暖かい海水が寄ることをラニーニャ現象と呼ぶ。
まあ、赤ちゃんのゆりかごのように、毎年、どちらかに暖水域が寄る現象がこの太平洋で繰り広げられている。
暖かい海水上の空気はお風呂の中の空気のように暖かいので、丸い地球は温度差を解消しようと北の空気が暖水域上に流入しやすくなる。
寒暖差の大きい空気同士が激しく混ざりあうことで巨大な低気圧と発達する。
今年の暖水域はハワイから東の海なので、低気圧の発達のピークがカリフォルニアに近かった。
僕は4年前にスポンサーがパタゴニアに変わり、本社を訪れるタイミングをうかがっていた。
どうやら出発する時が来たみたいだ。
事前に同じチームメイトの24歳にしてアメリカのロングボードマガジンの編集長を牽引した友人のデヴォン・ハワードと連絡を取り合いながら、前半はベンチュラ周辺、後半はサンディエゴ周辺と決めていた。
出発の日、カメラマンの熊ちゃんと空港で待ち合わせし、お互い席を3つ確保したことにより10時間のフライトは苦ではなかった。
9年ぶりのLA空港。
毎年アメリカンドリームを求めて何百万人もの多種多様な人々が訪れる国だけあってイミグレーションは厳しい。
いかなる記入漏れも許されず、あやしい返事をしようものなら、即刻別室で何時間も取り調べをうけることもある。
特に僕はまったく日本人に見えず、パスポートを出すとおまえは日本人か?と不思議な顔をされ疑わられる。
まあ、パーフェクトに記入しているので別室攻撃はないが、頻繁に訪れていた若い頃は何度か別室に連れて行かれたことがある。
空港を出るとまずは ①レンタカー を借り、昔の記憶を思い出しながら、慎重に運転を始めた。
大げさに言えば、もうここはスターウォーズに出てくる宇宙人のバー状態と思ったほうがいい。
すれ違うやつは銃を持っているかもしれないし、薬中にからまれるかもしれない。
トラブルが起きてからではすべてが遅く、危ない人、危ない所には近づかないのが鉄則。
そういうことを考えながら久しぶりの右側車線と左ハンドル。
でも、世界40か国の異文化を走破したので運転には自信がある。
②ハイウェイ に入り北上しながら、右にロサンゼルスの都市とハリウッド、左手には治安の悪いサンタモニカを横目にさらに北上する。

1 レンタカー代は2週間で50000円くらい。

1-2 ツーリーロープは車内に通し、ねじらないと音が鳴って、うるさいよ。

2 アメリカの高速は基本無料。でも車線が広いので降りるときは注意が必要。

少し走るとカリフォルニア独特のはだけた茶色の山々が視界に映る。
カリフォルニアは、海岸線から1マイル[1.6キロ]づつ内陸に進むにつれ0.6度気温が上昇するステップ気候で、雨が少なく温度差のある気候は岩石を砕き地盤をもろくする
そこにダイレクトな太平洋のうねりが押し寄せ幾多に及ぶ自然の営みによって日本では考えられないようなロングウォールの地形が生み出された。
太平洋を長い距離旅したそのうねりは日本の台風のように間隔が広く、しっかりしたうねりとなってコンセプション岬から南に群集するチャンネルアイランドに半分ブロックされながら通りぬける。
のちに浅くなった海底に速度を落としながら進み、波と波が複雑に交差しながらアメリカ大陸に到着する。
人々が愛してやまないその波質はとても乗りやすく、ロングボードの波にぴったりだ。
世界の中でもカリフォルニアにロングボードが多いのはその波質が由縁だと僕は思う。
ベンチュラの ③ホテル に到着するとすぐ目の前にc-streetポイントがあり、水温は思っていたほど冷たくなく、頑張ればブーツなしでもいける。
パタゴニア本社は ④ベンチュラ にあり、ベンチュラ滞在期間は、ほぼ毎日波乗りしたあとに本社を訪れた。

3 ベンチュラクラウンプラザホテルは 、C-street point の目の前にある。

4 カルフォルニアクールセンス。

日本のパタゴニアを23店舗まで大きくした中心人物の ⑤藤倉さん も僕らと同じ日に日本から来ていて、僕らをとても ⑥親切にケア してくれた。
アメリカでのあだ名はふじさんで、パタゴニアが世界規模で成功している理由には、日本のフィードバックが欠かせない。
その重要な架け橋を担っている人物でもある。
そんなふじさんが ⑦本社 をナビゲートしてくれて、創業者の ⑧イボォン・シュナード氏 [78歳]にも会って、 ⑨昼食 を共にしたりした。
イボォンさんは口数少なくほとんどしゃべらない。
かつてクライミングの名手で、何事においても冷静沈着で、ものごとを進めるときに百戦錬磨だと聞いた。
一つ、一つの杭を確実に岩に打ち込まなければ谷底に転落し、死が待っている環境で過ごしてきたからああいう風格になったと気づく。
じつは、22年前にフランスのビアリッツで何度かお会いをしていて、とても静かな人に見えるが、うちに秘めるものは環境問題でさぞかし苦労した人生だったと思う。

5 アメリカ人相手に対等にものをいう姿は僕は好きだね~。

6 いいサーファーは、入る前によく波を見る。

7 松との風味。

8 言わずと知れたパタゴニア創業者。

9 イヴォン氏は多くは語らない。砕ける岩を見極めるように人の心も見抜く。

そして今回イヴォンさんの息子、 ⑩シェイパーのフレッチャーさん にも会い、日本の店頭に並ばれるロングボードを日本の波用に合わすチューニングをしたり、 ⑪自分自身のボード もオーダーした。
特に日本の波は距離が短く、簡単に言うとノーズライダーとハイパフォーマンスの中間のボードが日本の波にあっていると思う。
本社を初めて訪れた感想は、とても自由な感じがした。
効率化最重視で社内には ⑫託児所 があったりしていて、そのうち日本の大きな会社でも導入されればと思うが法律の問題で難しいそう。
僕はグローバルアンバサダーの立場なのだけど、自信を持ってどんどんアイデアを出して提案していくことが自分にも求められる。
ただ、ステッカーを貼って宣伝をする時代は日本のサーフィン界でも終わりの時が来ていて、自分でいろいろ提案してこそ会社にいろいろ還元されていく。
これは僕の個人的な見解だが、日本のような先輩、後輩がきつい会社は、たとえ若いものがいいアイデアを持っていてもその提案が通りにくいケースが多々あり、その会社は衰退していくケースが多々あるように思える。
大事なのは違う意見を聞く姿勢で、いいアイデアであればたとえ歳が20歳若くても認め、誉めることだと思う。
パタゴニアの雰囲気は、波が上がるとみんなで海に行き、山がよければ山にいく。
たくさん魚つれそうな日には釣りに出かけ、みなさん大自然の ⑬『THE DAY』 を心待ちにしている。
人間は、大自然の中に入ると邪念がなくなり、マイナスイオンをたくさん吸収してアイデアが浮かび、そして、また仕事に集中する。
これは、脳がリフレッシュすることが科学的に証明されている。

10 フレッチャーシュナードデザインのお店は本社の横にある。

11 さらにチューニング。

12 効率化重視と安心。

13 ローラーコースター。

この日、まだ、波は小さかったがすぐそこまで巨大なうねりが押し寄せていた。
翌日、予想通り海はうねりの列で、この日、イボォンさんが別荘の ⑭ランチ へ連れて行ってくれる予定だったが、途中のハイウェイの下に通っている水道管が破裂したため、渋滞がひどく、明日にお預けとなった。
僕とふじさんはこの日、C-streetの巨大なウォールでサーフィンをした。
セットは遥か沖で割れ、自分以外全員喰らっていた。
最後の波は、ピアの横まで乗りつぎ、玉石に激しく打ち当たるショアブレイクでプルアウトしたら、なんとライフガードが近づいてきて、車についている拡声器でボードを捨てて上がってこいみたいなことを言っている。
僕の内心は、はぁ?なにいっているんだぁ?と思い、セットが止んで普通に上がったら驚いた顔をしていて、僕のボードに貼ってあるステッカーを見て、にやにやしながら、なんだよ、びっくりさせるなよみたいな表情だった。
後で聞いた話だと、死人も出ている超デンジャラススポットだった。
翌日、この日の朝、ランチへ行くことになった。
イボォンさんの家に着くと、ひとつ40キロはあろう植木鉢を5個、車に運ばされた(笑)。
別荘に持って行きたいらしく、僕と熊ちゃんは任せて下さいとばかりに喜んで運んだ。
ランチにはお店などないので、途中subwayで最大サイズのサンドイッチを調達し、ハイウェイを1時間ほど北上した。
途中から少し標高の高い山が見え、緑が生い茂っていた。
これは、水分を含んだ空気が山に当たり、雨がいくぶん多い地域なのだと思う。
ランチとは知る人ぞ知る楽園で、日本で言ったら国立公園みたいなもので、許可がないと入れない広大な私有地で、招待されない限りは入れないプライベートビーチである。
そこには、鷹やハヤバサ、カワセミ、コヨーテなどが住み、ゴミひとつ落ちてない徹底的に管理された土地だ。
無数に点在するブレイクを横目に見ながら進み、僕らはイボォンさんの⑲別荘の前のポイントで入ることにした。
沖に着くと誰もいなく、左右どちらを見渡しても誰もいない。
時よりくるセットはダブルを超えており、僕は深いチャンネルから浅くなる岩礁を陸地の目印を頼りにラインキープしていた。
心許しているほんの数人でのセッションは、ほかのセッションとは違い、ストレスがなく、サーファーにとってもっとも有意義なこのうえない最高の時間だ。
海からあがり、サンドイッチを食べながら、僕は、イヴォンさんに原発事故による健康被害の話を少しだけした。
おそらく、過去にこの別荘でたくさんの環境問題に関する議論が行わられてきたはずだから、僕はあえてこの場所を選んで重い口を開いた。
イヴォンさんは、日本は ⑮自然エネルギー の普及はどうなっているんだぁーとふじさんに問いかけ、ふじさんは少しずつ初めているという返答をしていた。
帰りのドライブでは、あのベンチュラハイウェイという曲を聞きながらベンチュラに帰った。
この日の夜、人のことを見てないふりしてよく見ているボスがすこしだけ気を許してくれたのか?今夜、食事に誘ってくれたのである。
僕の中では、イボォンさんが元気なうちに話すことが山ほどあるが、少しずつ僕のことを理解してくれるだろうと思っていた。
夜のベンチュラの街は日曜日であることか人であふれていて、パーキングが見つからず、僕らは右往左往していくつか見つけたが、そこはコインパーキングで、イボォンさんはパーキングにお金を出すのが嫌いな性格だったので、やっとこさっとこ無料の市営パーキングで駐車した。
その間、僕らは車の中で大笑いをしていた。
会社をあそこまで大きくした人間なので、当然、節約できるものは節約する。
僕らはいきつけのお寿司屋さんでお寿司をおごってもらった。
次の日、とても驚くニュースが日本から届いた。
それは沖縄でみぞれを観測したのである。
人類が観測機器を用いて観測し始めたここ百年間で初めてのことであり、瞬時に僕の脳裏をよぎったのは、1週間後、カリフォルニアコーストに巨大なうねりが届くということだ。
沖縄でみぞれを観測したということは、中国大陸から巨大な高気圧が寒気を吹きだしており、同時に東海上では巨大な低気圧が猛烈に発達しているいわゆるメガ西高東低気圧配置。
自然なのでどうなるか分らないが、日本で西高東低が決まるとその大型の低気圧は、4日後ハワイ、7日後カリフォルニアにうねりが届くことがわかっている。
この日は本社を半日かけてまわり、スタッフの皆さんはとても撮影に慣れていて日常茶飯事だという。
ここアメリカでも時代は少しずつ変わってきており、大量生産、大量消費が少しずつ見直されてきており、環境問題に取り組む会社の筆頭にいるパタゴニアはアメリカでも大きく注目されている。
⑯リサイクル で丈夫で長持ちの商品を作る、コストは高くなるが長い目で考えた場合、消費は減るので、結果的にはお得ということになる。
やはり、車でも機械製品でも安いものはすぐ壊れ、また、買わなければならない。
午後は、 ⑰リンコンでサーフ。

<前半終了>

14 左から、ミスターふじ、航介、イヴォン氏、僕、くまちゃん。

15 一石三鳥…、日陰、雨よけ、発電。

16 楽しさと真剣さが同時にないと作業がはかどらない。

17-1 ある人が言うには、世界で一番いい波はリンコンと。

17-2 デヴォンのスタイリッシュカットバック。

PHOTO BY KUMANO